リジェネラティブ農業を深掘り!再生農業とは?


農業

こんにちは。サスティナブルライターの山下です。

世界では、土壌を回復させる

「リジェネラティブ農業」によって

現在の農業のあり方をシフトしようとする

動きが生まれています

 

一方で、日本ではどういった目標が掲げられ、

どのような取組みが行われているのでしょうか?

 

世界の動向と日本の状況の両方を見比べることで、

見えてくるものがあるかもしれません。

土を再生させるリジェネラティブ農業をおさらい

 

芽がでている

「リジェネラティブ農業」とは、

農薬などによって失われた土の中の微生物を回復させ、

豊かな土壌を取り戻す農業の姿を指します。

日本語では「再生農業」「環境再生型農業」

などと呼ばれます。

 

世界の土壌の約3分の1は、

微生物などの生物多様性が失われ、

危機的な状況にあるとされています

このままでは作物が育たたず、

世界的な食料不足になると心配されています

 

また、土の中には二酸化炭素などの

温室効果ガスが蓄えられています。

土壌が劣化するとこうしたガスが大気に放出され、

地球温暖化を進めるという問題も指摘されています

 

リジェネラティブ農業では、

農薬や肥料を使うことを止めたり、作物の種類や

植える場所を定期的に変えたりすることで、

土中の微生物を回復させます

 

 

リジェネラティブ農業への

シフトを急ぐ欧米企業

 

土壌中の微生物が一度いなくなってしまうと、

回復させるには3年ほど必要になるといわれています。

そこで、欧米の食品や衣料などの大手企業は

リジェネラティブ農業を行う農家と長期契約を結び、

リジェネラティブ農業への移行を支援しています

 

前回の記事では、アウトドアメーカーの

パタゴニアの例を紹介しました。

(参考『リジェネラティブ農業とは?12月5日の世界土壌デーで農業の形を考える』)

 

食品大手の米カーギルは、

早くからリジェネラティブ農業の

支援に取り組んでいます。

2030年までに、リジェネラティブ農業を行う

北米の農地を約40,500平方キロメートルにする

という具体的な目標を立てています。

 

また、マクドナルドなどと協力して、

リジェネラティブ農業で生産された飼料で

肉牛を育てるプロジェクトも開始しています。

このプロジェクトには、

5年間で850万ドルが投資されるとのことです。

 

最近では、アパレル世界大手の米ラルフローレンや、

バーバリーなども、リジェネラティブ農業へ

大規模な投資を行うと発表しています。

 

(参考:Cargill to advance regenerative agriculture practices across 10 million acres of North American farmland by 2030RALPH LAUREN CORPORATE FOUNDATION AND SOIL HEALTH INSTITUTE UNVEIL NEW U.S. REGENERATIVE COTTON PROGRAMBURBERRY BUILDS ON CLIMATE POSITIVE COMMITMENT WITH BIODIVERSITY STRATEGY TO PROTECT, RESTORE AND REGENERATE NATURE

リジェネラティブ農業の背景にある大きな問題

 

草

では、こうした大企業が

リジェネラティブ農業に注目する背景を、

もう少し深掘りしてみましょう。

 

世界の土壌の約3分の1が危機的な状況にあることは、

前回の記事でご紹介しました。

作物が育たない土壌が広がると、

穀物や野菜、果物といった食料の不足につながります

 

食料生産が減っても、

食料を必要とする私たちのニーズは減りません。

むしろ、世界全体の人口は、

日本と違って増える傾向にあります

 

供給が減る一方で需要が増えると、

食料の価格は高くなります。

食料価格が上がると、経済的に貧しい状況にある人は

十分に食べられない状況になるかもしれません

 

こうした状況が続くと、

社会情勢も不安定になると考えられています。

社会情勢が不安定になるとは、

紛争などが起こる可能性が高まるということです。

 

このように、土壌の劣化は

多くの重大な問題と深くつながっています。

 

食料自給率の低い日本にも深刻な影響が予想される

 

食料の6割近くを海外に頼っている日本でも、

世界の食料の動向は他人事ではありません

食料の生産が減ると、生産国は自国への

供給を確保し、輸出する量を減らすと予想されます。

 

そうなると、日本に輸出される食料は減り、

価格が上がってしまいます。

 

生活に不可欠な食料の値段が上がると、

私たちはとても困ります。

実際に今、ガソリン代が高騰して、

私たちの暮らしや経済に大きな影響を与えています。

 

食料で同じことが起こったらと考えると、

とても不安になりますよね。

 

このように、食料危機は

どこか遠い国の出来事ではなく、

日本でも起こりうる問題なのです。

 

(参考:日経BP 夫馬賢治著『データでわかる 2030年地球のすがた』)

 

日本における有機農業の状況は?

 

実った穂

 

日本の農林水産省は、

リジェネラティブ農業という表現はしていませんが、

有機農業を次のように定義しています。

 

「有機農業は、生物の多様性、

生物的循環及び土壌の生物活性等、

農業生態系の健全性を促進し強化する

全体的な生産管理システムであるとされ……(抜粋)」

 

そこで、有機農業の現在の状況をみていきたいと思います。

 

2018年度の全耕地面積に占める

有機農業に取り組む面積は、0.5%だとされています。

都道府県別にみると、北海道、

鹿児島、熊本がトップ3です。

 

日本の有機農業取り組み面積グラフ

 

(出所:農林水産省『有機農業の推進について』令和3年3月3日)

 

有機栽培された農作物のニーズは、

この8年間で約4倍に拡大しているといいます。

健康や安全面から農薬を使わない

有機栽培の食品を選ぶ人が増えていると考えられます。

 

世界全体の有機農業の割合は1.5%だが増加は加速

日本での有機農業の取組面積は0.5%ですが、

世界全体でもまだ高いとはいえません。

2018年時点で、世界全体で有機農業に取り組む面積は1.5%です

 

世界全体で有機農業に取り組む面積

 

(出所:農林水産省『有機農業の推進について』令和3年3月3日)

 

しかし、増加の勢いは日本と世界とでは

大きく異なります。

この10年ほどの間に、

世界で有機農業に取り組む面積は約2倍に伸びました。

 

一方、日本では2009年から2018年までの

8年間の増加率は45%にとどまっています。

 

10年間と8年間のため正確な比較ではありませんが、

それでも大きな開きがあることがわかりますね。

 

(参考:農林水産省『有機農業の推進について』令和3年3月3日)

有機農業で世界をリードするオーストリア

 

オーストリアの畔

 

日本政府は、2050年までに有機農業に取り組む

農地面積を25%にする目標を掲げています。

 

世界の中でも有機農業が先行している

欧州のオーストリアは、

2019年時点で有機農業の取組面積が26.1%です。

 

・オーストリアの有機農地面積と比率の推移

オーストリアの有機農地面積と比率の推移

(出所:ジェトロ 地域・分析レポート『知られざる有機農業先進国(オーストリア)』2021年1月15日)

 

ジェトロの上記レポートによると、

オーストリアで有機農業が増え続けている理由は

3つあります。

 

(1) 政府による従来型農法から

有機農法への転換支援金、

(2) 1995年のオーストリアのEU加盟、

(3) 大手スーパーの自社ブランドによる

有機食品の導入 だといいます。

 

政府と企業の双方による有機農業のサポートが

奏功していると考えられます。

 

(参考:ジェトロ 地域・分析レポート『知られざる有機農業先進国(オーストリア)』2021年1月15日)

私たちも農業や土壌の今に関心をもとう

 

種を植えている

リジェネラティブ農業や有機農業の大切さに

気付き始めた人は増えてきており、

日本や世界でもそのニーズが高まりつつある

といえるでしょう。

 

しかし、世界全体の農業に占める

それらの割合はまだ高いとはいえません

 

一部の企業や国で取組みが先行していますが、

大半は従来の農業が営まれています。

 

土壌の劣化による深刻な影響を学んだ私たちが

消費者としてできることは、

まず有機農業でつくられた商品を選ぶこと。

 

そして、これからも農業や土壌などの今について

知ろうとする姿勢が大切だと思います

 

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サステナブルライター山下 略歴

電力会社やベンチャー企業でエネルギー関連のビジネスに従事したのち、2019年にサステナブルライターとして独立しました。「家庭の省エネエキスパート」資格を持ち、自治体において気候変動や地球温暖化に関するセミナーを実施した経験もあります。環境問題をもっともっと身近に感じてもらえるよう、わかりやすい記事を心がけています。

【実績】「RE JOURNAL(VOL.02)」「SOLAR JOURNAL(VOL.33)」「情報誌グローバルネット 2020年4月号」ほか

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投稿者プロフィール

サステナブルライター 山下
電力会社やベンチャー企業でエネルギー関連のビジネスに従事したのち、2019年にサステナブルライターとして独立しました。「家庭の省エネエキスパート」資格を持ち、自治体において気候変動や地球温暖化に関するセミナーを実施した経験もあります。環境問題をもっともっと身近に感じてもらえるよう、わかりやすい記事を心がけています。

----------【監修者:文 美月】----------

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は長風呂。