現在の食料システムが抱えるさまざまな問題を解決するために、
科学者たちが提唱した「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」。
これは人にも地球にもよい影響を与える食生活とされています。
食料システムの課題を紐解きながら、
地球の限界点を測る「プラネタリー・バウンダリー論」や
「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」についてご紹介します。
今の食料システムが抱える問題
現在私たちがお世話になっている食料システムには、
さまざまな問題が潜んでいます。
食料システムとは、食料の生産・加工・輸送・消費にいたるすべての活動です。
ロスゼロブログの読者のみなさんも、
食料システムに関するさまざまな問題を耳にしたことがあるでしょう。
例えば、食料生産のために森林を切り拓いたり、
水産物を獲りすぎたりといった問題は
ニュースなどでも目にすることがあります。
消費という観点では、
世界の人口78億人のうち飢餓に苦しんでいるのは約8億人。
一方で、肥満状態の人々は約19億人にのぼるといわれます。
日本も例外ではなく、
食べすぎや栄養の偏りによる生活習慣病は珍しくありません。
このような状況からわかるのは、
現在の食料システムは決して完璧ではないということです。
食料が必要な人に届かず、一部の人々に過剰に偏っています。
今、私たちの目の前にはたくさんの食料があります。
私たちは毎日、今日は何を食べようかと頭を悩ませています。
こうした便利な生活は何によって支えられているのか、
私たちはもっと知ろうとすべきではないでしょうか。
現在の食料システムに問題があるのなら、
改善につながるアクションを起こすこと大切だと思います。
地球の限界「プラネタリー・バウンダリー論」
(出典:https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010101.html)
食料システムの問題を考えるときによく登場するキーワードが
「プラネタリー・バウンダリー」です。
日本語では「地球の限界」や「惑星限界」といわれます。
スウェーデンのストックホルム・レジリエンスセンターの
ヨハン・ロックストローム所長らによって提唱されました。
2009年に発表された論文によって世界的に注目を集め、
国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも
大きな影響を与えたことでも知られています。
プラネタリー・バウンダリー論では、
私たち人間は地球環境に多大なプレッシャーを与えながら生活しており、
ある限界点(ティッピングポイント)を超えてしまうと、
地球がもとの状態に戻れなくなってしまうと主張されています。
そのため、この限界点をあらかじめ把握しておくことで、
壊滅的な変化を避けようとするのが論旨です。
プラネタリー・バウンダリーでは、
地球の資源の限界を次の9つの観点で科学的に評価します。
9つの観点とは、
気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、
グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、
大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染――です。
欧州では政府機関がレポートを発表
2020年5月には、
欧州環境庁(EEA)とスイス連邦環境局(FOEN)が共同で、
ヨーロッパのプラネタリー・バウンダリーに関する報告書を発表しました。
9つの観点のうち、
窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化
に焦点が当てられました。
報告によると、窒素、リン、土地利用に関して
ヨーロッパは限界点を1.8~3.3倍も超えてしまっていると報告されています。
ちなみに、窒素とリンは農業で使われる化学肥料の主な成分です。
この報告結果はとてもショッキングですが、
食料システムが地球環境に与えるインパクトの大きさを痛感することができます。
日本では、環境省が平成30年度版「環境・循環型社会・生物多様性白書」で
プラネタリー・バウンダリーの考え方を紹介しました。
上図はこの白書から引用したものですが、
窒素とリンの循環だけでなく、
絶滅の速度においても限界点を超えていることがわかります。
食料システムの変革を急がなくてはならない理由が、
こうした科学的な分析によっても示されています。
「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」による食料システムの変革
問題を含んだ食料システムを変えるために、
科学者たちによって提唱された新しい食生活を
「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」といいます。
日本語にすると、
地球と人にとってヘルシーな食生活といったところでしょうか。
これを提案したのは、EATランセット委員会という科学者たちの集まりです。
ストックホルム・レジリエンスセンターや財団などによって設立された
非営利組織で、ノルウェーの住炉に拠点を置いています。
プラネタリー・ヘルス・ダイエットの考え方は、
2050年までに限界点の範囲内で
100億人に食料を供給するために必要な食生活として提案されました。
この提案が画期的なのは、具体的な食生活を示している点です。
肉や卵といった動物性食品や精製された穀類ではなく、
植物性の食品や全粒粉などの食品を食べようと呼びかけています。
こうした食品は私たちの体にもやさしいのですが、
地球環境にも大きな負担をかけないとされているからです。
なお、プラネタリー・ヘルス・ダイエットが
減量の方法として紹介されることもあるようですが、
ポイントは体重を減らすことではなく、
人にも地球にもやさしい食生活を送ることです。
どんな食生活が地球にやさしいのか
では、もっと具体的に、
どのような食生活が地球にも体にもよいとされているのでしょうか?
EATランセット委員会の要約レポートでは、
食品を3つのカテゴリーに分類し、
食べる量を減らした方がよい食品や進んで食べたい食品を
わかりやすく示しています。
(出典:https://eatforum.org/content/uploads/2019/07/EAT-Lancet_Commission_Summary_Report.pdf)
その分類によると、
牛肉とジャガイモなどのでんぷん質の多い野菜は控えたがよく、
魚や野菜、果物、豆類、全粒穀物、ナッツは食べることが推奨されています。
もちろん、毎日の楽しい食事は私たちの暮らしを豊かにしてくれるものですし、
食生活を完全にシフトすることには大きなストレスが伴います。
大切なことは、こうした新しい考え方をまず学ぶこと。
そして、次に、
無理なく楽しみながら生活に取り入れようとする姿勢ではないでしょうか。
何も知らないまま生活するのと、
知ったうえで変化を起こそうとするのでは大きな違いが生まれると思います。
プラネタリー・ヘルス・ダイエットは、
私たちの健康にも地球環境にもうれしい一石二鳥の食生活だといえます。
楽しみながら暮らしに取り入れて、
私たちも地球もハッピーに過ごしたいですね。
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サステナブルライター山下 略歴
電力会社やベンチャー企業でエネルギー関連のビジネスに従事したのち、2019年にサステナブルライターとして独立しました。「家庭の省エネエキスパート」資格を持ち、自治体において気候変動や地球温暖化に関するセミナーを実施した経験もあります。環境問題をもっともっと身近に感じてもらえるよう、わかりやすい記事を心がけています。
【実績】「RE JOURNAL(VOL.02)」「SOLAR JOURNAL(VOL.33)」「情報誌グローバルネット 2020年4月号」ほか
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ロスゼロは、食品加工メーカーで様々な原因によって発生する
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また、ロスゼロはSDGs12番「つくる責任・つかう責任」を
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投稿者プロフィール



- 電力会社やベンチャー企業でエネルギー関連のビジネスに従事したのち、2019年にサステナブルライターとして独立しました。「家庭の省エネエキスパート」資格を持ち、自治体において気候変動や地球温暖化に関するセミナーを実施した経験もあります。環境問題をもっともっと身近に感じてもらえるよう、わかりやすい記事を心がけています。
----------【監修者:文 美月】----------
株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は長風呂。
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